わさんみつのお話

旅の記録を中心に、様々な情報を書き綴っていきます。

【始発⇒終電】関東7都県を140円で一周、「大回り乗車」に挑戦してきた。 ①「未明」


真っ暗な空にぱらぱらと降りしきる霧雨。日時は7月4日(木)朝4:00。私和三蜜ミルク紅茶は、静寂に包まれた細い住宅街の入り組んだ路地を、神奈川県は橋本駅を目指してせっせせっせと歩いていました。

 

Googleマップが指し示す橋本駅への予想到着時刻は、4:35。私が乗ろうと思っている橋本駅発横浜線下りの始発電車の出発時刻は、4:34。

 

そう、大ピンチです。

 

この電車を逃すと、次の電車は5:05発。ど早朝から30分も橋本駅の改札で待ちぼうけを食らうことになります。寝不足の身体に鞭を打ってこの時間に起きている私にとって、しょっぱなからのミスはメンタル的に致命傷になります。絶対に避けなければなりません。

 

日々都会の人込みをメッシばりのステップとスピードで軽快に交わし、致命傷レベルの寝坊をかすり傷程度にごまかしてきた自慢の脚力を存分に発揮しながら、一秒たりとも足を緩めることなく進み続ける私。毎朝のように繰り返される喧騒は、どうやらこの日のためにあったようです。

 

 

 

 

 

さて、タイトルを見れば一目瞭然ではありますが、私は今、「大回り乗車」なるものを始めようとしています。しかしながら、本文をお読みの皆様の中には、

 

「いや「大回り乗車」ってなんやねん」

 

「またしょっぱなから置いて行かれたわ、読むのやめよ」

 

「橋本駅の近くに住んでるんだ、特定したろ」

 

「ばか、あほ、うんぴっぴ」

 

と思われている方もいらっしゃることでしょう。

 

そんな皆様のために、橋本駅に到着するまでの道すがらを利用して、まず「大回り乗車」とはなんなのか、そして本日私が計画している旅路がどのようなものなのか、「早足で」ご説明させて頂きます。 

 

「大回り乗車」とは何か

 

「大回り乗車」は一言で説明すると、「隣駅まで移動するのに、140円切符だけ買って、もんのすごく遠回りして色んな電車に乗っちゃおう」、という金欠鉄道バカの質素な娯楽を指す言葉です。

 

電車の運賃というのは、原則として移動した距離に応じて加算されていきます。移動した距離が長ければ長いほど、運賃も比例するように増えていきます。

 

しかしながら、関東をはじめとするいくつかの都市圏のJRの電車においては、その原則が通用しなくなることがあります。なぜなら、一つの目的地まで行くのに、複数のルートが想定されるからです。

 

例えば、新宿駅から東京駅に移動しようという時、中央線を使って行くこともできますし、山手線を使っていくこともできます。無論、中央線と山手線では移動距離が違いますが、入った改札と出た改札は一緒。どのルートを使って移動したのかを、改札でその都度確認することは不可能です。

 

そのような状況を想定してJRは、複雑に路線が交差する大都市圏において、「どのようなルートを使おうとも最短距離の運賃を請求する」というルールを設けました。(正式には、「大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び回数乗車券における特例」というらしい。)つまり、新宿駅から東京駅までの運賃は、最短距離である中央線に基づいて計算します、どんなルートを使おうが同じ運賃で良いですよ、ということです。

 

このルールを逆手に取ったのが、「大回り乗車」です。どれだけ時間をかけて、どんなルートを使って移動しようが、移動しよう出発駅の隣駅で降りたらその金額しか請求されない。たった140円で、たくさんの電車に乗ってものすごい距離を移動することが出来ちゃうわけですね。

 

しかしながら、この「大回り乗車」にはいくつかルールがあります。

・途中、改札から出てはいけない。

・ルートは絶対に重複してはいけない。

・指定の区域内でしか適用されない。等々

 

重要なのは、「ルートは絶対に重複してはいけない」というルールです。言い換えれば、ルートは「一筆書き」でなければならない、ということです。同じ路線を何度も往復したり、一度通過した駅にまた戻ってきたりしてはいけません。ほんのわずかであっても、一度でも通過した駅を再び通過したら、その駅までの運賃を無慈悲に請求されることとなります。

 

また、このような特殊な運賃体系が適用されているのは、全国の大都市圏におけるの指定区域のJR路線のみになります。関東圏もその一つであり、以下の区域に適用されます。

 

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この区域の中で、どう頑張ってもルートが重複しないと戻ってこれない、つまり「大回り乗車」で使うことのできない路線を除いたものが以下になります。

 

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この図に乗っている路線の中で、ルートが一筆書きであれば、どんなルートを使おうと最短距離の運賃で移動できる。これが、「大回り乗車」です。

 

今回の乗車プラン

 

私は以前からこの「大回り乗車」、一度やってみたいと思ってはいました。しかし、そこまで熱心な電車オタクではなく、どちらかというと「きつそうだから」というドМ精神に支えられていた「大回り乗車」への好奇心は、強敵「めんどくせえ」軍による猛攻を耐え忍ぶことができず、なかなか実行に移せずにいました。

 

しかし、今回「ブログのネタが欲しいな」軍の加勢により、晴れて好奇心軍の勝利とあいなり、挑戦を決意しました。

 

さて、そうと決まったらまずはルートの設計です。ルートの設計にあたり、私には以下のような希望がありました。

 

・房総半島に行ったことがないので行ってみたい。

・関東7都県全て通りたい。

・出来る限り大きく回りたい。

・なるべくしんどいコースにしたい。

 

やるからには、スケールはでっかく。可能な限り、最大のルートで。

 

謎に高い意識の下、Yahoo!乗換案内と大格闘を繰り返した結果、これらを全て叶える完璧なコースを発見しました。

 

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水色の丸は乗換駅です

 

 

橋本駅(神奈川県)を4:34に出る始発に乗り、東神奈川へ。そこから、東京駅(東京都)、蘇我駅(千葉県)と移動し、さらに内房線、外房線を使って房総半島を一周。最大限遠回りして成田駅まで行った後、我孫子駅、友部駅(茨城県)、小山駅(栃木県)、高崎駅(群馬県)と北関東を制覇。その後、大宮駅(埼玉県)や武蔵野線を経由し、八王子駅から終電の一つ前の電車に乗り、橋本駅の隣の相原駅に0:14着。

 

所要時間約19時間半、移動距離、7都県201駅を通過し、費用は140円。

 

完璧です。我ながらほれぼれする完成度です。これが私が求めていた、究極の「大回り乗車」です。あとは、実行に移すのみ。

 

 ※なお、八高線、相模線は過去に乗ったことがある、電車が少なくタイムスケジュールに響く、時間がない、等の理由で今回は通らないことにしました。

 

 

 

4:30 橋本駅(神奈川県) 

 

なんとか間に合いました。早足どころか普通に走りました。メッシというよりトッテナムのムサ・シソコばりの猪突猛進だったように思います。知らなかったらググってね。To Dare Is To Do.

 

それはさておき、本当に間に合って良かった。でも無駄口を叩いている余裕はありません。早速発券機の前に足を走らせます。

 

橋本駅から隣の相原駅までの運賃はわずか140円。小銭を発券機に入れ、「140」のボタンを押します。

 

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購入しました。この、たった一枚のこの紙切れが、今日の長い長い旅路における私のパートナーです。息つく暇もなく、今後19時間半出ることの出来ない改札を通過します。いよいよ、始まります。

 

今日のパートナー(140円切符)を絶対に無くさないように大切に胸ポケットにしまい、早足でホームへの階段を下りていきます。始発駅なので当然ですが、電車は既にホームに来ており、発車の時を今か今かと待っていました。簡単に写真だけ撮り、電車に乗り込みます。

 

いくら花の都大東京(神奈川県だけど)とはいえど、こんなど早朝から横浜線に乗り込む人はさすがに珍しいようで、電車はがらがら。シートの隅っこを陣取り、出発を待ちます。

 

4:34発 横浜線 東神奈川行

 

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始まりの時は思いのほかあっけなく、電車はさも当然のように静かに走り始めました。そりゃそうか、電車にとっちゃなんてなことない発車の一つに過ぎないもんな。

 

がたがたと揺れる横浜線。この時間に電車に乗っている人は、皆一様に活力がありません。寝てる人、スマホの画面を眺める人、なんだかぼけーとしてる人。私もその例にもれず、眠たさを押し殺しながら今日の行程の確認を行って時間をつぶしていました。にしても長いな、あんまり先のことは考えないようにしよう。

 

万が一スマホの充電が切れるとたいへん面倒なことになるため、なんJでレスバトルを眺めて暇を潰すこともできません。仕方なく死んだような顔(多分)でぼけーとしてると、いつの間にか電車は混み始め、座れるところもなくなっていきます。

 

目の前に立ったのは、スターウォーズにでも出てきそうな近未来的な腕時計をしたおっさんと、黄緑色の蛍光色のTシャツを着たおっさんという、中年二人組。あの上司がどうだのあの部下がどうだの朝から元気に会社トークに花を咲かせています。にしても、右側のおっさんの黄緑色のTシャツがあまりにもダサい。このおっさんの服のセンスは中学生で止まってしまったんだろうか。

 

蛍光色と言えば、私も中学生の時、水色の蛍光色のベストを愛用していました。とある休日、いつおどおり水色ベストを着用し自転車をあてもなく走らせていたところ、たまたま隣町の中学校に着きました。「○○中ってこんな感じなんだ」と校門の外から校舎を眺め、記念に写真を撮っていたら、練習中の野球部がなにやらこちらを見てくる。それも、わざわざ練習の手を止め、全員こちらを凝視しているではありませんか。水色のベストを着て、後者を撮影する姿はそんなに怪しいものでしょうか。いや、怪しいですね。不審者和三蜜は慌てて自転車に乗り込み、その場から逃走しました。

 

そんな昔話を思い出しているうちに、おっさん二人は新横浜駅で降りていきました。かく言う私も、間もなく最初の乗り換え駅です。

 

5:17 東神奈川駅(神奈川県)

 

今日のスケジュールは、終日かなりタイトなものになっています。乗り換えは原則数分以内。もしものトラブルに備えて多少の余裕は確保してありますが、一回目の乗り換えからちんたらしてるわけにはいきません。

 

加えて、今後の長旅を考えると、立ち乗車は極力避けなければいけません。それに、特に見どころもなさそうなこの京浜東北線は、寝不足な私にとっては仮眠に充てたい路線でもあります。なので、さっさと次のホームに移動し、最前列を確保しました。

 

5:25発 京浜東北・根岸線 大宮行

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無事座席を確保できました。ここから東京駅まで、約40分の道のりです。

 

にしても辺りを見回すと、スーツ姿のサラリーマンに紛れて、「お前この時間からその格好でどこ行くねん」と突っ込みたくなる人がごろごろいます(人のこと言えない)。小綺麗なジャケット来てる割に髭もじゃもじゃなお兄ちゃんとか、草むしりにでも行くんかという格好にぱんぱんのリュックを背負っているおっさんとか。

 

その中でも特に目を引いたのが、斜め前に座るおばさんでした。恰幅な体型に、ばっちり化粧を決め、小さな手提げバックと折り畳み傘を持ち、格好もお出かけ用の良い服を選んでいる彼女は、今からいったいどこに行くのでしょうか。仕事にしては小綺麗が過ぎるし荷物が少なすぎます。友人とのランチを楽しむには、あまりに時間が早すぎます。マジで検討がつきません。

 

もしかしたら、夫との変わり映えのない日々に飽き飽きして、「大回り乗車」でも決め込もうとしているのでしょうか。だとしたら私の同業者です。この先また一緒になって、長い旅路を共にする戦友になるのであれば、ここらで早めに仲良くなっておくのも一つの手です。

 

なんて思っていたら蒲田駅で降りていきました。不意に冷静になって、不毛な長旅はやめようと思い立ったのかもしれません。とても懸命な判断です。さすがは年の功です。

 

戦友おばさんがいなくなりやることもなくなった私は、気づけば眠りに落ちていました。その先に待ち受ける様々な困難を、まだ知る由もなく。

 

 

 

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