この記事はシリーズものです。是非①からお読みください。
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18:56 小山駅(栃木県)
誰よりも早く電車を飛び出すと、一目散に階段の方向へ向かいます。辺りを見回す限り、共に「小山ダッシュ(早歩き)」を決めようとしている人はいなそうです。心細いですが気にしてられません。進むのみです。
小山駅はやはりそれなりに大きい駅でした。改札階にはコンビニや飲食店などが複数立ち並んでおり、時間があればゆっくり見て回りたかったところです。多分この駅でなら、30分ぐらい余裕で潰せたと思います。一枚だけ写真を撮りましたが、慌ててたのかブレブレでした。
また小山駅には新幹線の停車駅でもあるようです。新幹線の改札の横を抜けた先に、両毛線のホームがあります。それと、すっかり忘れていましたがここは北関東2県目の栃木県です。栃木の地は生まれて初めて降り立つのですが、たった5分しかいることが出来ないのが少し残念です。また今度ゆっくり遊びに来たいです。
覚悟していた通り、両毛線のホームはなかなか遠いです。京葉線ほどあほみたいな距離ではないようですが、なかなかに遠い。しかし足を緩めるわけにはいきません。疲労困憊の身体に鞭を打ち、ひたすらに前に進みます。
階段を早足で駆け降りると、広々としたホームが見えてきました。そしてその横には、オレンジと緑のラインが入った電車の姿がありました。
19:01発 両毛線 高崎行
勝った、勝ったぞ、俺の勝ちだああああああ!!!!
藤原竜也ばりの絶叫をかまして床に倒れこみ、ついでに「キンキンに冷えてやがる!!!」と両毛線の床のコンディションを実況してやろうかと思いましたが、せっかく乗れた電車から降ろされたらたまったものじゃないので心の中に留めておきます。
いずれにせよ、私の勝ちです。度重なる失敗を経て、ついに、相原駅に帰る現実的な道筋を、この手で掴み取ったのです。
思えば、もし館山駅で帰ることを決意していたら、この勝利を手にすることはなかったでしょう。あの時私は、本気で帰りたいと思っていました。でも、そこで再び、一歩踏み出すことができた。先に進むという決断ができた。私という人間も、まだまだ捨てたもんじゃないですね。
電車に滑り込み、座るわけにはいかないので、いつも通りドア横に陣取ります。荒れた息を整えて、安堵した胸をなでおろします。
ゆっくりと群馬への道すがらを進み始めた車内の中で、一通り感慨にふけった後、「そういえば・・」と、ある事実が頭をよぎりました。というのも、小山駅で電車に乗り込んでから、電車が走り出すまでに1分は時間があったのです。加えてその間、おそらく水戸線から乗り換えてきたであろう複数の乗客が、済ました顔で電車に乗り込んできました。
徐々に徐々に冷静を取り戻してきた脳内に、心からの叫びがこだまします。
「わりと余裕じゃねえか!」
両毛線は、およそ2時間の行程になります。正直、これだけ疲れているなかでの2時間乗りっぱなし(それも立ち乗車)はかなりしんどいです。絶望です。ただ、ここまで来てやめるわけにはいきませんし、いずれにせよ帰らなければいけません。もう一度気持ちを入れ直します。あと5時間、がんばるぞ。
以前八高線に乗った時も思ったのですが、なんだか北関東って、外国人の乗客が多い気がします。調べてみると、群馬県は人口の2割が外国人である大泉町をはじめとして、多くの外国人が住んでいるようです。人口に占める外国人の割合は全国3位とのこと。ちなみに私の故郷である秋田県は最下位でした。さすが秋田です。
そういえば昔八高線で、見ず知らずの外国人にいきなり話しかけられたことがありました。彼は、「○○駅ってどうやって行けばいい?」と、○○駅へと向かう電車の中で、○○駅までの運賃が記された切符を握りしめながら話しかけてきました。「いや絶対行き方知ってるだろ」とツッコミたくなりましたが、暇だったのでテキトーに話を合わせてると、彼は私の横に座り勝手に身の上話を始めました。
私の記憶が正しければベトナム出身だという彼は、もともとは群馬とは遠く離れた県で出稼ぎをしていたようです。しかし、急に会社から異動を命じられ、数日前に群馬県のド田舎に飛ばされて来たとのこと。
単身異国の地にやってきて、全く知らない土地、それもド田舎。日本語もおぼつかない様子の彼は、おそらく相当な不安や孤独があったのだろうと思います。久しぶりに人と話したのが嬉しくてたまらないかのように、片言の日本語で一生懸命伝えてきました。きっと私によくわからない質問を投げかけてきたのも、誰かと話したい気持ちがあったのでしょう。煙たがらずに話し相手になって良かったと思える好青年でした。ほんの数駅の間だけ話しただけでしたが、彼に話しかけられたことをたまに思い出します。群馬で元気にやっているといいのですが。
両毛線では、残念ながらボーイの姿は見かけませんでした。押しボタンにびっくりしていた彼の姿を見るに、おそらく彼もあまり日本、あるいは栃木に住み慣れていないのではないかなと想像します。ボーイの日本での生活が充実したものであることを祈ります。
車内にいるのはほとんど学生で、すかすかの車内で様々な制服のラインナップがぱらぱらと入れ替わっていきます。座れる席はたくさんあるのに死にそうな顔をしながらずっと立っている私は、おそらく相当な変人です。
並んで座る中学生ぐらいの男女二人組がいました。楽しそうに話しかける女の子と、硬い表情に照れくささを覗かせる男の子。23年も生きてると、この二人が互いに好意を寄せあっていることぐらいは一目で分かります。そして、若々しい恋愛を目にする度に、積み重ねた歳の重さを少し恨みたくなったりもします。
二人は伊勢崎駅で仲良く降りていきました。そんな二人の背中に、「今のうちに精一杯楽しめよ」と届かないメッセージを口ずさみます。長続きすることを願います。
街の数だけ人がいます。人の数だけ物語があります。今日一日、私はたくさんの物語のエキストラになったような気分でした。今日同じ車両で時を過ごしたたくさんの人たちにとって、私はおそらく記憶には残らないでしょう。でも確かに、彼/彼女らの視界の中にいました。よく考えたら当たり前のことですが、普段は全く気に留めていない周囲の人を一日眺めていると、そんなささやかな役回りも悪くないように思えてきます。
なお、クッタクタのわりにやたらとセンチメンタルになっている両毛線の私ですが、この時めちゃくちゃ空腹に悶えていました。「小山ダッシュ(早歩き)」の成功により時間に余裕が生まれたので、大宮駅で晩ご飯にありつくことも出来そうです。大宮駅ともなれば、それはもう食事も選び放題なはず。楽しみです。
20:54 高崎駅(群馬県)
長かった旅路もついに高崎駅まで来ました。これで6都県制覇、残すは埼玉県のみです。
群馬感のある写真をぱしゃり。せっかく北関東3県を巡っているのだからゆっくり観光でもしていきたいところなのですが、残念ながら改札からでることはできません。「大回り乗車」の歯がゆいところです。
高崎駅でもあまり時間がないので、ちゃっちゃと次の電車に移ります。
21:05発 湘南新宿ライン 快速 国府津行
車内がすかすかだったため、思わず誘惑に負けて一度座席に座ってしまいましたが、すぐ立ちあがりました。というのも、座った瞬間信じられないほど大きな眠気の波が押し寄せてきたのです。ここまで来て寝過ごしは絶対にありえません。
加えて、この電車は国府津(こうづ)行です。国府津駅は神奈川県の西の方、小田原駅の二駅手前にある駅です。もしこの電車で爆睡し、起きたら国府津駅でしたなんてことになったらシャレになりません。いよいよ大号泣です。「寝たら国府津、寝たら国府津・・・」と自分に語り掛け、意識を奮い立たせます。
ちなみにメモには、「国府津(こうづ)に、行こうづ!」とか書いてありました。疲れはいよいよ限界に来ています。
すかすかの車内にいる乗客は、数名のおじさんと、スーツケースを持ちながらテディベアを抱き、スマホを触っている女子大生(?)のみでした。だらしなく爆睡を決めるおじさん方の中で、テディベア女子は唯一の癒しです。しかもかわいい。ちょっとテンションがあがります。
今回の旅路で気づいたことですが、私は可愛い女子についての記述だけやたらと詳細にメモする傾向があるようです。完全に無意識でした。我ながらキモイです。
気づけばテンション女子の隣には彼氏のような男が座っていました。ちょっとテンションが下がります。
圧倒的疲れと変わり映えのしない車内のメンツにぼーっとしていたら、あっという間に大宮駅につきました。待ちに待った晩ご飯の時間です。
22:24 大宮駅(埼玉県)
最後の県である埼玉県にやってきました。これにて7都県全制覇は達成です。あとは無事帰るだけですが、その前に晩ご飯です。
さあ何を食べようか。ここは大都会大宮、時間は30分あります。ここまで頑張ったのだから、ちょっとぐらい贅沢してもばちは当たらないでしょう。腹いっぱい美味しいものを食べて、ラストスパートのエネルギーをチャージしなければ。意気揚々とホームの階段を駆け上り、飲食店が立ち並ぶエリアへと向かいます。
やってねーーーー!!!
全部閉まってんじゃねえか!まだ10時過ぎとかだろ!ここまできてニューデイズで飯を済ませってか!?
埼玉県民はもうおねんねの時間なのか!?あああああ!!!???
すいません取り乱してしましいました。大変失礼いたしました。本気でショックだったんです。大目に見てください。
改札階を隅々まで調べてみましたが、まじで全部閉まってました。仕方ないのでニューデイズのおにぎりで我慢しました。大宮駅にはもう用はないのでさっさと次へと向かいます。
22:46発 埼京線通勤 快速 新木場行
ホームに行ったら埼京線があったのでとりあえずそれに飛び乗りました。いずれにせよ武蔵野線に乗り換えるので、この辺はどの電車に乗っても大丈夫です。
道中こうこつと、今日一日で通過した駅の数を計算していましたが、予定通りに相原駅までたどり着いた場合、始点橋本駅と終点相原駅を含めて、どうやら201駅に及ぶようです。多いのか少ないのかいまいちピンとこないですが多分多いです。ほぼ普通列車で移動していることを考えれば、多分めちゃくちゃ多いです。
201駅かあ、なんて感慨にふけっていたらすぐに次の乗り換えです。
22:53 武蔵浦和駅(埼玉県)
18時間以上電車に乗っていると、わずか7分の乗車は一瞬に思えてきます。もはや瞬間移動レベルです。本当に乗っていたのかすら怪しいレベルです。
さて、武蔵野線のホームへと向かう道すがら、あるものが目に飛び込んできました。立ち食いそば屋です。まだ入れるのだろうか、近づいてみると・・・。
ラストオーダー23:00、入れる!
きっと神様が私のこれまでの頑張りを天から見ていてくれたのでしょう。一度大宮駅でがっくりさせてからの粋な計らい、さすがは神様は演出家です。なにはともあれ、早速店内に入ります。
本日2度目のお蕎麦です。やっぱり改札内で食べる食事は立ち食いそばと相場が決まっています。多分なんてことない普通のそばなのだろうけど、空腹の身体にはめちゃくちゃおいしく感じます。空腹は最高のスパイスとはよく言ったものです。
ちなみに、23:10発の電車に乗らないと相原駅に帰れなくなってしまいます。ささっと食べ終えて次の電車へと向かいます。
23:10発 武蔵野線 府中本町行
実は武蔵野線に乗るのは人生で初めてです。武蔵野線は汚いという噂を聞いていたので、どれだけ汚いのかと期待していましたが、割ときれいで少し残念でした。上総湊駅の待合室のほうがよっぽど汚いです。
さて、旅もいよいよフィナーレが近づいてきたところで、ふと改めてこんな疑問が頭をよぎりました。
「なぜ私は今、こんなくたくたになりながら、大回り乗車などしているのだろう。」
こじつけようと思えば様々な理由を挙げることができます。元々旅が好きなのもあるし、patoさんへの憧れもあります。自分を無意味に苦しめるのが大好きという根っからのドМ根性もあります。正直、ブログのネタが欲しいというのも多少はあります。
それらは全て間違いではないのですが、しかし、それらが今回の旅を企画した一番の理由なのかと問われると、いまいち腑に落ちません。というのも、それよりももっと、この旅を振り返った時に思い浮かびあがる様々な情景の方が、よっぽどこの旅路を意味づけてくれているような気がしてならないのです。
蘇我での失敗、上総湊のタバコおじさん、館山で味わった絶望、日向の地で口ずさんだ日向坂46、長い時間同じ車両で過ごしたボーイ、水戸線から眺めた太陽。蒲田で降りて行ったおばさんも、虫を地面に叩きつけた女子高生も、MacBookアニキも、両毛線でイチャイチャしていた中学生も、鴨そばもシューマイ弁当も大宮で買ったおにぎりも。もし私が今日「大回り乗車」をしていなければ感じなかったであろう感情が、見ることのなかったであろう車窓が、気にも留めなかっただろう人々が、この旅路にはありました。
それらを前にして、私は今日という日が無駄だったなどとは全く思えません。むしろ、まだ見ぬ出会いのために、私は電車に乗っていたのではという気さえします。
きっと、旅に理由を求めること自体がナンセンスなのだと思います。旅をすれば自ずと様々な出会いや発見、経験があります。それらが最終的に、旅に様々な価値や思い出を与えてくれます。旅に出る理由なんていりません。旅が、理由をくれるんです。
良い記憶を良い記憶のまま終わらせるためにも、この旅路をハッピーエンドで終わらせたい。。最後まで駆け抜けます。
23:27 西国分寺駅(東京都)
気づけば「大回り乗車」のスタートから19時間が経過しました。夜遅くだというのに東京は人がたくさんいます。しかし、この人々の中で今日最も長い時間電車に乗っていた自信があります。なんだか誇らしい気分で、八王子駅へと向かいます。
23:36 中央線 高尾行
当然のごとく、立ち乗車を決めます。もうかれこれ7時間ぐらい、ずっと立ち続けています。両足が「そろそろよくない?」と語りかけてきてますが、心を鬼にして足をいじめ続けます。
そういえば、JRの切符には「有効時間」なるものがあります。改札を通してから数時間以上経った切符は、自動改札で「いや、何時間前の切符やねん、通せねーわ」となってしまい、駅員さんに事情を話さないと改札を出ることができません。具体的に何時間なのかは存じ上げないのですが、少なくとも19時間より短いだろうと思うので、ゴールの相原駅に着いたら駅員さんに正直に「大回り乗車してきました」と伝える必要があります。
これがちょっと緊張します。噂によると、すんなり通してくれる駅員さんもいれば、細かく経路を確認してくる駅員さんもいるとか。万が一、怖い駅員さんに「大回り乗車?なにそれ移動距離分全額払えや」とかカツアゲされたら多分泣いちゃいます。大丈夫であることを祈ります。
両足から響く「いい加減にしろ」「座れバカ」「ふざけんな」「帰りはタクシー使えよ」という罵詈雑言を懸命に無視しながら、相原駅での駅員さんとのやりとりをイメージトレーニングしていると、あっという間に最後の乗り換え駅、八王子駅がやってきました。
23:53 八王子駅(東京都)
ここまで来ると使い慣れた駅なので迷うこともありません。階段を上り、まっすぐ横浜線のホームに向かいます。
ホームに着くと、これから乗るであろう電車が、私の乗車を今か今かと待ちわびてい(るように見え)ます。電光掲示板に光る「0:04 橋本」の文字に、感慨に浸らずにはいられません。一度は見ることをあきらめかけた、「0:04 橋本」の文字。何の変哲もない、ごくありふれた電光掲示板にこんなにも心動かされてしまうとは、「大回り乗車」とは末恐ろしい存在です。
時計の針は既に12時を超えています。ついに、ラストランです。
0:04発 横浜線 橋本行
日を跨いだにもかかわらず、座席は概ね埋まっており、立っている乗客もちらほら。東京の夜の長さを改めて感じさせられます。
片倉駅、八王子みなみの駅を通り過ぎていきます。そして、トンネルを2つほど抜けた先に、その場所はありました。
0:13 相原駅(東京都)
帰って・・・
きたーーーーーーー!!!
帰ってきました。やっと帰ってきました。橋本駅からたった一駅のこの相原駅に、19時間半かけてやっと帰ってきました。
しかし、改札を出るまでが「大回り乗車」です。先述のとおり、駅員さんに「大回り乗車してきました」と正直に伝えなければいけません。ちょっとだけ緊張します。
私「あの~すいません・・・」
駅員さん「はいなんでしょう」
私「大回り乗車してきたんですけど・・・」
駅員さん「あ・・・」
駅員さんは、軽く引いた様子で切符を受け取りました。別に引かなくてもいいんじゃないかな。確かに140円で電車乗りまくるJR側からしたらコスパ最悪な客かもしれないけど。別に引かなくてもいいんじゃないかな。
よれ曲がった切符に「無効」の印を押してもらい受け取ると、改札の外へと歩き出します。この瞬間をもって、19時間半、7都県201駅を駆け抜けた「大回り乗車」、完結です。
「大回り乗車」から2週間たった今(執筆時7月18日)、私は次のチャレンジへの計画に想像を膨らませています。やりたい企画が頭の中からたくさんあふれてきます。
私のことなので、きっとどの企画もハードになります。無計画さ故のとんでもないミスも、またしでかすことでしょう。
それでも、こうして次のチャレンジを楽しみに思えるのは、あの館山駅で先に進むことが出来たからだと思います。本当に帰りたいと思った時に、先に進むことを決め、結果なんとかすることができた。その自信が、確かに胸に根付いてるのを実感します。
「大回り乗車」は、想像以上にしんどかったです。もしやってみようと思われる方がいたら、せめて晴れた日に、長くても10時間ぐらいの規模で抑えておくことをおすすめします。
ただ、私は楽しかった。やってよかった。
次は関西で「大回り乗車」やろうかな。
<完>