わさんみつのお話

旅の記録を中心に、様々な情報を書き綴っていきます。

深刻化するひきこもりの長期・高齢化。あなたは「8050問題」を知っていますか。

 

こんにちは、わさんみつです。

 

 

突然ですが、皆さんは「8050問題」という言葉を知っていますか?

 

「8050問題」(はちまるごーまるもんだい)とは、現在深刻化しているひきこもりの長期・高齢化を指し示す言葉です。

 

今年の3月、内閣府が40~64歳の「中高年ひきこもり」が全国に推計61万3千人存在するとの調査結果を発表しました。

 

また、ここ一か月の間に起こったひきこもりに関連する複数の事件が、広く世間の関心を集め盛んに報道されたことは、皆様の記憶にも新しいかと思います。

 

日本社会の片隅にある、ごくあり触れた家庭の奥でいったい何が起こっているのか。是非皆さんにも知って欲しいと願い、この文章を書いています。

 

 

 

 

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「8050問題」とは何か

 

「8050問題」(はちまるごーまるもんだい)とは、ひきこもりの親が80歳、子が50歳である様から生まれた、日本のひきこもりの長期・ 高齢化の問題を指す言葉です。

 

正確な時期は把握できていませんが、おおよそ2010年代に入ってから使われ始めた言葉であるように思います。

 

 

元来ひきこもりは、若者の問題として捉えられてきました。元々ひきこもりは不登校の延長線上に生まれた問題であり、実際にひきこもり者がひきこもりを始めるタイミングのほとんどは10代や20代の頃になります。

 

しかしながら、ひきこもりという言葉が生まれてからおよそ30年あまりが経過し、その間社会復帰を果たすことが叶わなかった多くの当事者が、結果として50歳を過ぎてもひきこもり続けているという状況が生まれてしまいました。

 

その結果として、従来のひきこもり問題には無かった様々な課題や困難が生じることにもなりました(下記で説明)。現在、「8050問題」は日本の抱える1つの深刻な社会問題となりつつあります。

 

 

 

「中高年ひきこもり」61万3千人

 

前述のとおり、元来「ひきこもりは若者の問題」であると考えられてきたため、これまで内閣府によって数回行われてきたひきこもり実態調査(平成22年内閣府「若者の意識に関する調査」、平成28年度内閣府「若者の生活に関する調査」など)は、その対象を15歳から39歳に限定したものとなっていました。

 

しかしながら、ひきこもり者が40代、50代に突入していく様を目の当たりにしている支援者や当事者、その家族等からは、30代までを対象とした調査では、ひきこもり問題の全体像が見えていない、ひきこもりは若者の問題ではなくなりつつあるという指摘が根強くありました(マジでおっしゃる通り)。

 

そうした声を受け、内閣府は2018年、初めて40代以上を対象としたひきこもり実態調査を実施。そして、2019年3月27日、その結果が公表されました。

 

 「40~64歳までのひきこもり、全国に推計61万3千人」

 

この61万3千人という数字は、人によっては予想の範疇であり、人によっては驚くべき数字であったかもしれません。いずれにせよ、従来から指摘されていたひきこもりの長期・高齢化が、初めて具体的な数字として立証されることとなりました。

 

※なお、ここでいう「ひきこもり」とは、内閣府の定義に基づく「広義のひきこもり」を指します。詳しくは、内閣府ホームページ「生活状況に関する調査(平成30年度)」をご確認ください。 https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html

 

 

 

「8050問題」が深刻化する背景

 

現在の40代、50代の方々は、おおよそ1980年代、90年代に学生時代を過ごした世代になります。そしてこの年代は、「不登校」や「ひきこもり」といった言葉が社会に出現し、認知され始めた時期と重なります。

 

現在でこそ、不登校やひきこもりに対する理解や支援が(徐々に徐々にではありますが)広まってきた感がありますが、そういった言葉が生まれた当初には、周囲の理解や支援の体制が十分に行き届いていなかったことは容易に想像がつきます。ましてひきこもりともなれば、本格的な認知が進み、支援の体制が整い始めるまでには00年代まで待たなければなりません。

 

ひきこもりは、その期間が長くなればなるほど、社会復帰が困難になると言われています。まだまだ支援や理解が浸透していなかった80年代や90年代の頃にひきこもり状態に陥った方々が、初期の段階で適切な支援に預かることができず、結果として社会復帰のタイミングを逸し続け、20年、30年という長期のひきこもり状態にならざるを得なかった現実が、現在に至る「8050問題」の背景にあると想像されます。

 

加えて、90年代初頭のバブル崩壊に端を発する不況、及び2000年代初頭のいわゆる就職氷河期も、この世代に大きな影響を与えていると言えるでしょう。ひきこもりになる主な原因の一つに「就職活動の失敗」があります。就職氷河期世代のひきこもり者は現在40代ではありますが、このままの状態が続けば、彼らが「8050問題」の中軸になるであろうことが予測されます。

 

 

 

「8050問題」の何が問題なのか

 

これまでのひきこもり当事者に関する主な課題や困難は、いかにして対人関係を再獲得し、就労や就学といった社会復帰を果たすのか、といったところにありました。

 

しかしながら、ひきこもり者の年齢が50歳を、その親の年齢が80を超えているといったような場合、そこから社会復帰を果たすということはあまり現実的な目標ではありません。それどころか、ひきこもりが長期化、高齢化していった場合、以下に挙げるような新たな課題や困難が自ずと生じてくることになります。

 

・親の年金のみによって親と子の生活がまかなわれることによる生活の困窮化

・親が病気や体力的な問題で家事や子どもの世話が出来なくなることによる生活の崩壊

・親の死後、子どもの生活をどうするのか

 

これらに加えて、親がひきこもりの子どもの存在を周囲に隠そうとすることによる「家庭の孤立化」や長年のひきこもり状態の継続によって親子の関係に深刻な溝が生まれてしまっているなど、ひきこもりの長期・高齢化には、従来のひきこもりとは異なる特有の課題や困難が付随してきます。そしてそれらの課題や困難は、上記で見て頂いたように、いかにして社会復帰を達成するのかといった次元の話ではなく、いかにして当事者と家族の生活を維持し、生命を守るのかという、より根源的で深刻な内容になってきます。

  

 

 

 あるべき支援の形

 

まず第一に、現在の公的なひきこもり支援制度の多くは、若者を想定した形で設計されており、年齢制限が設けられていることも少なくありません。例えば、厚生労働省によって運営されている、ひきこもりや「ニート」と呼ばれる方々の就労や社会的自立の支援を行っている「地域若者サポートステーション(サポステ)」の対象年齢は39歳まで、東京都のひきこもり支援の中核である「東京都若者社会参加応援事業」の対象年齢は34歳までとなっています。こうした年齢制限が、ひきこもりの長期・高齢化の実態にそぐわないことは言うまでもありません。最近では、政府が就職氷河期世代への支援プログラムを作成しているといった報道もありましたが、40代以上のひきこもりについての危機感と支援の必要性がより周知、浸透することを願うばかりです。

 

しかしながら、そうした従来の支援の形を40代50代まで拡充することが、必ずしも十分な対応ではないということも申し上げておかなければなりません。というのも、上で見たように、「8050問題」における主要な課題や困難は、社会復帰の達成ではなく、より根源的な生活や生命の保障にあるからです。

 

最近では、ひきこもりが長期・高齢化した家庭に対して、「サバイバル・プラン」の作成を手助けするという形の支援も登場してきています。これは、「親亡き後」ひきこもり当事者が生きていくための、現実的な計画を事前に策定しておこうというものです。親の資産や、申請できる公的な援助などによる収入と生活に必要な支出の計算から、本人が公的な手続き(生活保護の申請など)が単独でできるのか、家事最低限の家事をこなすことが出来るのかなど、「親亡き後」に浮上するであろう問題を事前に想定し支援者とともに対策を練っていきます。この「サバイバル・プラン」については、以下の書籍も参考にしてみてください。

 


 

 

 

 

いずれにせよ間違いなく言えることは、長期・高齢化したひきこもりの問題を家庭で抱え込んだところで、なんら解決にも前進にも至らないということです。20年、30年ひきこもり状態は、本人もその家族をも、大きく疲弊させていることでしょう。その困難と苦悩は、遠く想像に及ばないものものであると思います。ひきこもり状態の子どもの存在を知られることを恐れて誰にも相談しない親、もう解決をあきらめてしまっている家庭も少なくないと聞きます。

 

しかしながら、ひきこもり当事者とその家族の方々の人生をより豊かにする方法は、必ずあるはずです。そして、豊かな人生は、勇気ある行動から始まります。支援の輪がもっと広がり、社会の中に、多様で柔軟な「生きていける道」が開けていくことを切に願っています。